資本サイクル 設備投資の波と株の成績
儲かる業界にはお金が集まり、数年後に儲からなくなる。
儲かる業界には、お金が集まる。工場や鉱山やデータセンターが次々に建ち、やがて供給が需要に追いつき、値段が下がって利益が減る。すると投資が止まり、供給が細って、また儲かるようになる。ロンドンの運用会社 Marathon はこれを「資本サイクル」と呼び、需要ではなく供給を見て投資してきた。これが米国の75年のデータで本当に成り立つのか、そして今どの業界がサイクルのどこにいるのかを確かめる。
3行でいうと
- 業界の設備投資が、設備のすり減る分(減価償却)に比べていつもより多い時期は、その後5年の株が市場に負けた。1970〜89年は年1.2%、1990〜2019年は年1.9%。投資を控えた時期のあとは勝った。
- 今、投資がいつもより多いのは電力設備(作る側)・電力会社(買う側)・半導体(工場を持つ会社)・データセンター(ハイパースケーラー)。控えているのは石油・ガス。データセンターは減価償却の3.5倍を投じていて、2008年以降でいちばん多い。
- クラウドの大手5社は、サーバーの耐用年数を3〜4年から5〜6年に延ばした。元の年数のままなら、直近の年度の減価償却は約322億ドル多く、営業利益の7%ほどにあたる。
資本サイクルの4つの段
- 儲かる
ある業界の利益がふだんより高くなる
供給が足りず、値段が上がる。株主も銀行もそれに気づく。
- お金が集まる
設備のすり減る分より、ずっと多くを投じる
設備投資が減価償却の2〜3倍になる。どの会社も、ほかは増やさないと思って一斉に建てる。
- 供給が増える
数年後、新しい設備がいっせいに動き出す
鉱山は10年、半導体工場は2〜3年、データセンターは1〜2年。需要が追いつくことは少ない。
- 儲からなくなる
値段が下がり、利益が減り、投資が止まる
弱い会社が退き、供給が細って、また最初に戻る。株価はたいてい利益より先に下がる。
このサイトで使う物差しは「設備投資 ÷ 減価償却」。減価償却は、今ある設備が1年ですり減る分のおおよその額なので、1なら減った分を入れ替えているだけ、2ならその倍を投じて設備を増やしている。ふだんの水準は業界ごとに違うので、それぞれの業界の過去20年と比べる。
実際に起きた4つの山
通信 · 2000
-34%その後5年の、市場との差光ファイバー網への投資が過去最高に。回線は余り、通信株は崩れた。 設備投資は減価償却の2.4倍で、過去20年でいちばん多かった。
半導体・電子部品 · 1996
-46%その後5年の、市場との差パソコンの好況で工場が一斉に増え、半導体の値段が急落した。 設備投資は減価償却の2.1倍で、過去20年でいちばん多かった。
鉱業 · 2011
-49%その後5年の、市場との差中国の需要を当てにした鉱山の開発が、金属の値下がりと重なった。 設備投資は減価償却の2.1倍で、過去20年でいちばん多かった。
石油・ガス · 2014
-70%その後5年の、市場との差100ドルの原油でシェールへの投資が膨らみ、2014年に値段が半分になった。 設備投資は減価償却の1.4倍で、過去20年でいちばん多かった。
各業界で、山のころの数年のうち設備投資÷減価償却が最も高かった年。成績は、その数字が公表される翌年10月から数えた。
出典:BEA / French Data Library
75年のデータで、本当に成り立つか
米国の37業界の1947〜2019年を、毎年3つに分けた。その業界の過去20年の中で投資が多い年、ふつうの年、少ない年。1970年以降でみると、投資が多い年のあとは、5年後に平均で市場より2%下回り、控えた年のあとは9%上回った。
数値で見る
| 経過 | 投資が多かった年のあと | 控えた年のあと |
|---|---|---|
| 0か月後 | 0.0 | 0.0 |
| 6か月後 | 0.0 | 1.5 |
| 12か月後 | -1.3 | 1.8 |
| 18か月後 | -0.5 | 3.5 |
| 24か月後 | -1.6 | 4.1 |
| 30か月後 | -0.2 | 5.4 |
| 36か月後 | -1.9 | 6.0 |
| 42か月後 | -0.9 | 7.4 |
| 48か月後 | -1.9 | 7.8 |
| 54か月後 | -1.3 | 9.4 |
| 60か月後 | -2.2 | 9.2 |
1970〜89年と1990〜2019年のどちらでも成り立ち、直近の期間では36業界中24業界で同じ向き、同じ年の業界どうしで比べても30年中23年で投資の多い側が負けた。1947〜69年ははっきりしなかった。戦後の需要の伸びが速く、建てたものをほとんど吸収できた時代だった。
今、各業界はサイクルのどこにいるか
直近12か月の設備投資÷減価償却(主な上場企業の合計、SEC の決算)と、2008年からの各年と比べた高さ(0=いちばん低い、100=どの年よりも高い)。右端は、同じ業界で過去に、投資が多かった時期のあとの5年が、控えた時期のあとの5年より毎年どれだけ悪かったか。
| 業界 | 投資÷償却 | 2008年からの高さ(0〜100) | 段階 | 過去:多い時期のあと(控えた時期と比べて) |
|---|---|---|---|---|
| 金鉱山 | 1.38倍 | 61 | ― ふつう | 年3.2%負けた |
| 銅 | 1.56倍 | 56 | ― ふつう | 年3.2%負けた |
| 石油・ガス | 0.83倍 | 28 | ▼ 控えている | 年3.7%負けた |
| 電力設備(作る側) | 2.18倍 | 100 | ▲ 投資が多い | 年0.9%負けた |
| 電力会社(買う側) | 2.67倍 | 100 | ▲ 投資が多い | 年0.2%勝った |
| 半導体(工場を持つ会社) | 1.65倍 | 78 | ▲ 投資が多い | 年5.1%負けた |
| データセンター(ハイパースケーラー) | 3.54倍 | 100 | ▲ 投資が多い | 年4.2%負けた |
ほかのサイトの前提を、供給側から見ると
- 要注意
鉱山株ウォッチ:「金鉱山は投資を控えている」
金鉱山の設備投資は減価償却の1.38倍。2008年の山の2.9倍より低く、2008年からの真ん中の値(1.31倍)を少し上回る。
くわしく → - 保たれている
AI相場ウォッチ:「AIへの投資が続く」
続いている。データセンターの設備投資は減価償却の3.5倍で、前の年度の2.9倍からさらに増えた。ただ過去には、ここまで投資が多い技術の業界は、そのあと株が市場に負けてきた。
くわしく → - 要注意
電化ウォッチ:「電力設備が詰まっている」
買う側(電力会社)の設備投資は減価償却の2.7倍で過去最高。ただ作る側も2.2倍と2008年以降で最も多く、増産に動き始めた。
くわしく →
AIの利益は、サーバーの耐用年数の延長で多く見えていないか
減価償却は、サーバーの値段を毎年の費用に割り振ったもの。耐用年数を3年から6年に延ばせば、毎年の費用は半分になる。クラウドの大手5社は2020〜25年にまさにそうした。各社の10-Kの注記の数字に合わせて試算すると、元の年数のままなら直近の年度の減価償却は322億ドル(幅272億ドル〜374億ドル)多かった。アマゾンは、AIの技術の進みが速いとして、一部のサーバーをすでに5年に戻している。
このページは情報の整理で、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。データは各公表元のもので、誤りや遅れがありえます。投資の判断はご自身で。
2026年9月30日 01:15更新・会社の決算は2026年8月まで・業界の長い歴史は2024年まで